電力市場価格の高騰と当社の対応について

陸前高田しみんエネルギー株式会社
代表取締役 小出 浩平

1.はじめに

 陸前高田しみんエネルギーは、市外の企業から購入していたエネルギーや食糧などをできるだけ地産地消にして、地域外に流出していたお金を地域内で循環させて陸前高田市を活性化させることを目的として設立されました。電気の供給だけではなく、陸前高田産の食材や生ごみ、森林資源などの地域循環を促す取り組みや、グリーンスローモビリティ(モビタ)の運営などを担っているのも、陸前高田市の活性化につながることだからです。

 目指している姿は、地域の皆様にお届けする電気を、100%地域の安価な再生可能エネルギーにすることです。発足当初は、まず市場(日本卸電力取引所、以下JEPX市場)で流通している電気を仕入れて公共施設と市民の皆さんに供給し、その収益で地域の再生可能エネルギーを増やしていこうという計画で、一歩を踏み出したところでした。その矢先に電力業界を取り巻く環境が大きく変動してしまい、関係者の皆様には大変なご心配・ご負担をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。

 これまで、当社のお客様には個別にご説明する機会を頂いてまいりましたが、この場をお借りして、電力業界を取り巻く環境の変化と当社の対応の経緯を記したく思います。

 なお、市内事業者の皆様で、電気料金の高騰の仕組みが分からない、今後の見通しが知りたい、と思われている方がいらっしゃれば、当社との契約の有無に関わらずご説明に伺いますので、どうか気兼ねなくご一報下さい。

2.電力業界を取り巻く環境変化と陸前高田しみんエネルギーの対応

 はじめに、月々の電気料金の内訳を記します。電気料金は、基本料金+電力量料金+再エネ賦課金(再生可能エネルギーの固定価格買取に要した費用を電力の使用者から広く回収する国の仕組み)の合計で計算されます。電力量料金の中には、火力発電の燃料(原油・LNG・石炭)の輸入価格によって増減する燃料費調整額が含まれます。

(出典)資源エネルギー庁HPより

 現在の全国的な電気料金の高騰は、基本料金や電力量料金の値上げに加え、この燃料費調整額の高騰が要因となっています。

 以下に、これらの値上がりの背景となっている社会情勢と、当社の対応を時系列で記します。

時期電力業界を取り巻く環境及び当社の対応
2019年10月(1) 陸前高田しみんエネルギー発足当初
 東北電力に比べて電気料金を約3%削減しながら、得られた収益を様々な陸前高田市の地域活性化の取り組みに拠出しており、計画通り順調に進めておりました。
2020年12月~2021年1月(2) JEPX市場の異常高騰
 2020年12月、世界的な脱炭素化の潮流によって石炭に比べてCO2排出量の少ない天然ガスの需要が非常に大きくなってきました。更に、日本では想定以上の寒波の影響を受けて、天然ガス価格が高騰し、結果としてJEPX市場が異常高騰しました。この高騰により、電力の仕入れ価格が販売価格を上回る「逆ざや」が生じ、新電力最大手でもあったFパワー社が破綻するなど、社会問題化しました。この時、当社も苦境に立たされましたが、陸前高田市と市民の皆様にご負担をかけてはならないと資金調達に奔走し、愛媛県西条市に拠点を置く、地産地消の事業に力を入れているアドバンテック社に資本参加(子会社クールトラスト社の出資)を依頼し、並行して日本政策金融公庫様と東北銀行様による協調融資を受けて、値上げをすることなく何とか苦境を乗り切ることができました。
2021年11月~(3) 天然ガス価格の高騰
 異常高騰後、JEPX市場は安定を取り戻したため、当社は事業を立て直しつつありました。しかし、コロナ第一波後の中国を中心とした世界経済復興に伴い天然ガス・原油の需要が急拡大し、この影響によりJEPX市場は11月頃から再び高騰し始めました。
 この高騰によって、当時約800社登録されていた新電力の中で、約60社が事業撤退や経営破綻に追い込まれました。この頃、エネルギーを所管する経済産業省(資源エネルギー庁)から、幾度となく当社に連絡があり、アドバイスや助言を頂いております。
 この状況をどのように乗り切るか、様々な議論を繰り返しながら、次のように方針を決めさせて頂きました。

①この社会情勢は異常事態なので、陸前高田市と市内のお客様に事情を説明させて頂き、東北電力よりも高額にならない範囲での値上げのお願いし、JEPX市場が安定してきたら、それに応じて値下げをさせて頂く。その際、供給電力量の8割を占める公共施設については、JEPX市場が比較的安定する春期・秋期に市場連動型の料金を採用させて頂く。

②市民の皆様に支えられて事業を継続するのであるから、事業の柱である地域活性化への貢献をより明確にしていく。

③短期的には、電力の調達をJEPX市場に完全に委ねず、商社等から相対で購入して、市場の影響を極力抑える(市場が高騰しやすい夏期2022年7月、8月、及び冬期12月、2023年1月、2月は固定価格で調達)

④中長期的には、目指している地産地消の電源(当初は太陽光発電の直接利用中心)を増やしていく。

 このように方針を決め、陸前高田市をはじめ、全てのお客様にご説明し、了承を頂きました。「地域のためにこれからも頑張って」と多くの励ましの言葉を頂き、何とか2022年度の計画を立案することができました。
2022年2月下旬~(4) ウクライナ侵攻の勃発と混乱
 2022年度の計画がまとまった矢先の2022年2月24日にウクライナ問題が勃発し、その後EU諸国が原油、天然ガスをロシア以外から購入するという状況になり、世界的なエネルギー危機の状況が発生しました。更に、急速な円安の影響も受けて、JEPX市場が定常的に高騰するとともに、燃料費調整額が過去に例を見ない高値となっております。

【参考】JEPX市場と燃料費調整額の前年比較


 当社は2022年度の夏と冬は電源を固定価格で調達していたので、JEPX市場の高騰の影響は最小限に抑えることができていたのですが、燃料費調整額の高騰により全てのお客様の電気代が高騰するとともに、春や秋のJEPX市場が例年よりも高くなってしまったことで、市場連動型の料金を採用させて頂いていた公共施設の電気料金が上がり、大規模な補正予算を組んで頂くなど大変心苦しい状況となっております。
ウクライナ問題勃発後~現在(5) 他の新電力の値上げや事業撤退を踏まえた当社の対応
 このような状況下で、全国の新電力の登録数737社のうち、事業を停止した会社は104社となっています。市内事業者様の中にも、新電力の事業撤退に伴う解約通知が届いたり、2倍から3倍にも上る値上げ通知を受けたりと、大変苦慮されている事業者様が多数おりました。少しでも地域の皆様のお力になりたいという思いから、当社として、問い合わせを頂きました皆様を一軒ずつ訪問し、できうる限りのアドバイスをさせて頂きました。その中で、当社からの供給の方が安価に抑えられる場合には、ご契約をさせて頂きました。

3.大手電力会社の経営状況の悪化と今後の業界動向

(出典)2022/11/8付け電気新聞より抜粋

 ウクライナ問題以降、新電力の撤退等が相次ぎ、大手電力会社(東北電力等)に切り替える流れとなってしまい、大手電力も新規の受付を停止したことで、行き場を無くす「電力難民」と呼ばれるお客様が数万件に上りました。このような場合の緊急避難の方法として、最終保証供給約款制度があり、大手電力の送配電会社(東北電力ネットワークサービス等)が通常の電気料金の20%増しで供給しています。しかし、20%増しでも大手電力は赤字となってしまうことから、9月から20%増しではなく、市場に連動した価格での契約という異常事態になっています。

 このように大手電力も非常に厳しい経営状態となり、右に示すように、4月から9月の中間決算で、四国電力を除き、多くの会社が過去最大の赤字となっています。

 現在、各大手電力会社とも、JEPX市場に連動した形での契約のみ受け付けるという状況で、来年4月からは法人のみならず、国の承認が必要な家庭の電力の値上げも発表されています。今後の業界の同行として、2023年度はまだ世界情勢が安定しないと見込まれており、2023年度はJEPX市場に連動した電気の供給という形が主流になると見込まれています。

4.陸前高田しみんエネルギーの今後の対策

 以上のような状況の中、市役所や市民の皆様に大変なご心配とご負担をおかけしており、大変申し訳なく思っております。皆様方のお力を頂き、何とか耐え抜いて、陸前高田市の活性化のために、粉骨砕身、努力していきたいと思っています。

当社の当面の対策としまして、次の通りの方向性を検討しています。

①国の補助金を活用した電気料金の値下げ

 節電チャレンジプログラムや政府の総合経済対策による補助金を有効活用し、当社のお客様の電気料金を2023年1月から値下げさせて頂きます。

②適正価格の設定

 業界の主流となったJEPX市場に通年連動した価格では、全てのリスクをお客様にご負担いただくことになり、かつどれくらい上昇するか分からないという不安な思いを強要してしまいますので、2022年度と同様に、夏と冬には相対の電気を購入して固定価格での提供を考えています。春と秋は市場と連動した形として、安価になった場合にはそれを反映するようにしたいと思います。

③省エネルギーのご提案

 現在、専門会社とともに、エアコンや照明の適正利用のシステムの調査をしています。市庁舎での試算では使用量の約10%の削減が見込まれています。導入費用の負担がない形でご提供できるように検討しています。

④事業の柱である地域活性化への貢献

 今年度始動したグリーンスローモビリティ事業を中心に、より地域に貢献できるよう努めてまいります。

⑤JEPX市場よりも安価でCO2ゼロの電気の活用

 ワタミオーガニックランド様のブドウ畑の太陽光発電(ソーラーシェアリング)や、夢アリーナ他公共施設の屋根に設置した太陽光発電の稼働が近日中に始まり、JEPX市場よりも安価でCO2ゼロの電気を活用することができるようになります。更に、次年度からは現在民間企業4社の屋根に設置を進めている太陽光発電の余剰電気も活用させて頂きます。

⑥脱炭素の取り組みを強化し、安定電源を増やす

 陸前高田市が脱炭素に向けて計画を立案中ですが、連携させて頂き、景観等に配慮し、市民の皆さんに愛される太陽光発電などの安定電源を増やしていきます。

⑦一般家庭及び思民への電力供給

 以上の取り組みを着実に進めながら、1日も早く一般家庭や思民の皆様にも電気を届けられるように努めてまいります。

以上、長々と記させて頂きましたが、陸前高田しみんエネルギー創業の思いは1mmも変化していません。「しみんエネルギーがあってよかった」と思っていただける会社を目指して頑張りますので、何卒、ご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。